
やまもとやま様
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スター
グレード
称号
Expert
ユメオトエキスパート(10店舗以上利用)
総合満足度
5.0
焼きたてのパンの香りが、朝の冷気と混ざり合って、私の鼻をくすぐった。普段には無い感覚で目覚めたのは今日が休みでアラームを切っていたのが理由だろう。 少しの幸せに浸りながらもこれからの憂鬱と向き合う時間の始まりだ。そんな事を考えると焼きたてのパンの香りも、どこか遠のいた気がした。 とはいえ、終わりの見えている憂鬱はまだ救いがある。午前中だけ。昼には終わる。 今日の街はどこか柔らかい。通勤鞄を肩にかけながらも、足取りは普段のそれより軽かった。 職場に着けば、静まり返ったフロアにキーボードの音だけが乾いて響く。窓の外では、のんびりとした雲が流れていた。世界は休んでいるのに、自分だけが切り取られたような感覚。それでも、時計の針が確実に進んでいることが、唯一の慰めだった。 待ち合わせは15時。 街を歩きながら店先から漂うコーヒーの香りに、今朝のパンの匂いがふと重なる。今日という日は、香りに縁があるらしい。 「お疲れさま。休日出勤、大変だったね」 そう言って笑う彼女の声は、朝の冷気とは違う温度で、確かに私を包んだ。 特別なことは何もないのに、隣に彼女がいるだけで景色の輪郭がくっきりとする。 別れ際に「またね」と手を振る彼女を見送りながら、私は思う。 今日の憂鬱は、きっとこの時間のための前奏だったのだと。 朝のパンの香りから始まった一日は、思っていたよりもずっと悪くなかった。 むしろ、ほんの少しだけ、特別だった。
利用日: 2026年3月4日